ケインズ『貨幣・雇用・利子の一般理論』(岩波書店、2008年)を読んで

ケインズ以前の古典派経済学は、需要と供給は市場メカニズムを通じ、望ましい配分に均衡されるとした。供給は自ら需要を作り出し、所得は消費と貯蓄を経て市場へと投資される。古典派によれば、一国の総生産量と国民所得を決定するのは供給能力であり、総需…

鶴見良行『ナマコの眼』(筑摩書房、1990年)を読んで

ナマコは、アジア太平洋をまたぐ複雑なつながりを形成してきた。人々の動きに接する領域の産物でもあった。著者は、ナマコを通じて国家単位の歴史記述では表出されえない「周縁・辺境」に生きる人々の営みを照らし出す。 19世紀、欧米諸国が中国への輸出品…

川勝平太『日本文明と近代西洋』(日本放送協会出版、1991年)を読んで

人類はモノを通じて、生活様式、文化、社会構成を変化させてきた。 本来、経済と文化は不可分の関係にある。しかし、経済学は通常、モノと社会の相互連関がもたらす影響まで想定しない。そこで、著者は「物産複合」という概念装置を用いて文明史の再構成を試…

堂目卓生『アダム・スミス』(中央公論新社、2008年)を読んで

本書の目的は、『道徳感情論』におけるアダム・スミスの人間観を考察し、『国富論』に結実する経済思想とその現代的意義を再構築することにある。 『道徳感情論』では、「義務の感覚」に統御された競争の意義が考察される。スミスは、社会の秩序と繁栄を導く…

アダム・スミス『国富論』(日本経済新聞社、2007年)を読んで

『国富論』は、国家繁栄の原理を明らかにした書物である。スミスは、国の豊かさの本質は「労働」にあり、労働と土地が生む年間生産物の量が国の豊かさを担保すると述べる。では、年間生産物を増加させる要因は何か。スミスが提示するのは労働の「分業」概念…

シュムペーター『資本主義・社会主義・民主主義』(東洋経済新報社、1995年)を読んで

シュンペーターは、「資本主義は何を原動力にして進んでゆくのか」という資本主義の将来的ビジョンについて不吉に満ちた予言を暗示した。そもそも資本主義は自己崩壊へと歩む道のりを必然的に抱えている。本書で描かれるのは、そのプロセスと帰結する先の展…

外岡秀俊『地震と社会』(みすず書房、1995年)を読んで

関東大震災以降構築された「災害像」が阪神大震災までにいかに変容し、形成されていったのか。また都市計画や災害援助を巡る法的枠組みに、どのような影響を与えたのか。筆者は、歴史的に構築された「災害像」が災害防止に対する社会システムの綻びを形成し…